携帯基地局と端末の周波数帯と出力電力

携帯基地局は主に700MHz~3.5GHz帯(4G)やミリ波(5G)を使い、空中線電力(送信出力)は通常160W以下、小規模局は20mW以下で運用されています。
端末(スマホやモバイルWi-Fiルーター等)はこれらより遥かに弱い電力で通信し、上空利用時は干渉回避のため出力制御が行われています。
ここではその詳細を解説しています。
日本の携帯電話回線(4G/5G)では、主に以下の周波数帯が使われています。
4G(LTE)
| バンド |
周波数帯 |
用途 |
| Band 1 |
2.1 GHz |
メイン帯域 |
| Band 3 |
1.8 GHz |
都市部の容量増強 |
| Band 8 |
900 MHz |
プラチナバンド(広域) |
| Band 11 |
1.5 GHz |
補助帯域 |
| Band 18/26 |
800 MHz |
au系プラチナバンド |
| Band 19 |
800 MHz |
docomoプラチナバンド |
| Band 21 |
1.5 GHz |
補助帯域 |
| Band 28 |
700 MHz |
広域カバー |
5G(Sub-6)
| バンド |
周波数帯 |
特徴 |
| n77 |
3.7 GHz |
メイン帯域 |
| n78 |
3.5 GHz |
メイン帯域 |
| n79 |
4.5 GHz |
docomo独自帯域 |
5G(ミリ波)
| バンド |
周波数帯 |
特徴 |
| n257 |
28 GHz |
超高速・超低遅延(エリアは限定的) |
携帯基地局と端末の空中線電力(送信出力)
端末(スマートフォン側)
スマートフォンの最大送信出力は、おおよそ次の通りです。
- ● LTE(4G): 最大 約 23 dBm(約 200 mW)
- ● 5G Sub-6: 最大 約 23~26 dBm(約 200~400 mW)
- ● 5G ミリ波: 最大 約 30 dBm(約 1 W)程度(端末により異なる)
- ● 実際には、基地局との距離や環境に応じて自動的に出力が制御され、必要以上に強くは送信しません。

基地局側
基地局はスマホよりはるかに高出力で送信します。
- ● マクロセル基地局(大規模): 数十 W(おおよそ 10~40 W 程度)
- ● ミニセル/スモールセル(ミニセル・ピコセルなど): 数百 mW ~ 数 W 程度で屋内用はさらに低く、100 mW 以下のことも多い。
- ● 実際の規制や設計では、アンテナ利得を含めた EIRP(等価等方輻射電力)で上限が決められています。
ここまでのまとめ
- ● 周波数帯: 携帯電話は主に 700 MHz~4.5 GHz(4G/5G Sub-6)と 28 GHz(ミリ波)を使用
- ● 端末の送信出力: おおよそ 200~400 mW 程度(ミリ波は最大 1 W 程度)
- ● 基地局の送信出力: 数 W~数十 W と、端末より大きい
日本の主要4キャリア(ドコモ/au/ソフトバンク/楽天モバイル)が使用している4G・5G周波数帯
日本の主要4キャリア(ドコモ/au/ソフトバンク/楽天モバイル)が使用している4G・5G周波数帯を知ることで、モバイルWi-F-ルーターなどを選定、購入する際にも役立つ一覧表です。
日本の携帯4キャリア:使用周波数帯一覧表(4G/5G)
■ 4G LTE(FDD/TDD)
| 周波数帯 |
バンド |
ドコモ |
au(KDDI) |
ソフトバンク |
楽天モバイル |
| 700MHz |
B28 |
○ |
○ |
○ |
– |
| 800MHz |
B18/B26 |
– |
○ |
– |
○(ローミング) |
| 800MHz |
B19 |
○ |
– |
– |
– |
| 900MHz |
B8 |
– |
– |
○ |
– |
| 1.5GHz |
B11 |
– |
○ |
○ |
– |
| 1.5GHz |
B21 |
○ |
– |
– |
– |
| 1.7GHz |
B3 |
○ |
○ |
○ |
○ |
| 2.0GHz |
B1 |
○ |
○ |
○ |
– |
| 2.5GHz |
B41(TDD) |
○ |
○ |
○ |
– |
| 3.5GHz | B42(TDD) |
○ |
○ |
○ |
– |
■ 5G NR(Sub6 / ミリ波)
| 周波数帯 |
バンド(n) |
ドコモ |
au(KDDI) |
ソフトバンク |
楽天モバイル |
| 700MHz |
n28 |
○ |
◎ |
◎ |
○ |
| 800MHz |
n5/n18/n26 |
○ |
○ |
– |
– |
| 900MHz |
n8 |
– |
– |
◎ |
– |
| 1.5GHz |
n74 |
– |
○ |
– |
– |
| 1.7GHz |
n3 |
○ |
◎ |
◎ |
○ |
| 2.1GHz |
n1 |
◎ |
○ |
◎ |
– |
| 2.3GHz |
n40 |
– |
– |
– |
– |
| 2.5GHz |
n41 |
– |
◎ |
○ |
– |
| 3.4–3.5GHz |
n78 |
◎ |
◎ |
– |
– |
| 3.7GHz |
n77 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
| 4.5GHz |
n79 |
◎ |
– |
– |
– |
| 28GHz(ミリ波) |
n257 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
■ 補足ポイント
- ● 700MHz帯(B28)はプラチナバンドとして4G/5G転用が進んでいる。
- ● 1.7GHz帯(B3)は4キャリア共通で広く利用。
- ● ドコモのみ4.5GHz帯(n79)を保有。
- ● 3.7GHz帯(n77/n78)はキャリアによって割り当てが異なる(ドコモ・au=n78、ソフトバンク・楽天=n77)
- ● ミリ波(n257)は4社とも割り当て済みだが、エリア展開は限定的。
キャリア別に整理した「詳細な周波数帯一覧表(4G/5G)」
NTTドコモ(docomo)
■ 4G LTE(FDD/TDD)
| 周波数帯 |
Band |
方式 |
備考 |
| 700MHz |
B28 |
FDD |
プラチナバンド(5G転用あり) |
| 800MHz |
B19 |
FDD |
山間部・郊外の主力 |
| 1.5GHz |
B21 |
FDD |
補完バンド |
| 1.7GHz |
B3 |
FDD |
都市部容量 |
| 2.1GHz |
B1 |
FDD |
メイン帯域 |
| 3.5GHz |
B42 |
TDD |
高速通信(LTE) |
| 2.5GHz |
B41 |
TDD |
WiMAX系 |
■ 5G NR
| nBand |
周波数帯 |
備考 |
| n1 |
2.1GHz |
5G転用 |
| n3 |
1.7GHz |
5G転用 |
| n28 |
700MHz |
広域カバー |
| n78 |
3.5GHz |
Sub6 |
| n79 |
4.5GHz |
ドコモ専用帯域 |
| n257 |
28GHz |
ミリ波 |
au(KDDI)
■ 4G LTE(FDD/TDD)
| 周波数帯 |
Band |
方式 |
備考 |
| 700MHz |
B28 |
FDD |
プラチナバンド |
| 800MHz |
B18/B26 |
FDD |
auの生命線(広域カバー) |
| 1.5GHz |
B11 |
FDD |
補完バンド |
| 1.7GHz |
B3 |
FDD |
容量確保 |
| 2.1GHz |
B1 |
FDD |
メイン帯域 |
| 2.5GHz |
B41 |
TDD |
WiMAX2+ |
| 3.5GHz |
B42 |
TDD |
高速LTE |
■ 5G NR
| 周波数帯 |
nBand |
備考 |
| 3.7GHz |
n78 |
メインSub6 |
| 4.0GHz |
n78(拡張) |
広帯域化 |
| 28GHz |
n257 |
ミリ波 |
ソフトバンク(SoftBank)
■ 4G LTE(FDD/TDD)
| 数帯 |
Band |
方式 |
備考 |
| 700MHz |
B28 |
FDD |
プラチナバンド |
| 900MHz |
B8 |
FDD |
ソフトバンクの要(プラチナ) |
| 1.5GHz |
B1 |
FDD |
補完 |
| 1.7GHz |
B3 |
FDD |
容量確保 |
| 2.1GHz |
B1 |
FDD |
メイン |
| 2.5GHz |
B41 |
TDD |
AXGP |
| 3.5GHz |
B42 |
TDD |
高速LTE |
■ 5G NR
| 波数帯 |
nBand |
備考 |
| 3.7GHz |
n77 |
メインSub6 |
| 28GHz |
n257 |
ミリ波 |
楽天モバイル(Rakuten Mobile)
■ 4G LTE(FDD/TDD)
| 周波数帯 |
Band |
方式 |
備考 |
| 1.7GHz |
B3 |
FDD |
楽天のメイン帯域 |
| 800MHz |
B18(ローミング) |
FDD |
auローミング |
■ 5G NR
| 周波数帯 |
nBand |
備考 |
| 3.7GHz |
n77 |
メインSub6 |
| 28GHz |
n257 |
ミリ波 |
まとめ:キャリアの特徴が一目でわかる比較表
| キャリア |
プラチナバンド |
メイン4G |
メイン5G(Sub6) |
特徴 |
| ドコモ |
B19/B28 |
B1/B3 |
n78/n79 |
エリア最強、バンド数最多 |
| au |
B18/B26/B28 |
B1/B3 |
n78 |
800MHzが強力 |
| ソフトバンク |
B8/B28 |
B1/B3 |
n77 |
900MHzが武器 |
| 楽天 |
(自社なし)B18ローミング |
B3 |
n77 |
シンプル構成 |

FDDとTDDの違い
FDD(Frequency Division Duplex)とTDD(Time Division Duplex)は、無線通信の方式の一つで、通信の電波を上り(アップロード)と下り(ダウンロード)に分けて使用する方法です。FDDは、周波数帯を微妙に変えることで上りと下りを認識する方式で、TDDは送受信の時間によって上りと下りを認識する方式です。
FDDは上りと下りの帯域が事前に決定されているため、上りが空いているからといってそれを下りに利用することはできませんが、TDDは上りを犠牲にすることで下りを強化することができます。
■ FDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)
上り(端末→基地局)と下り(基地局→端末)で、別々の周波数帯を使う方式。
特徴
- ● 上りと下りが同時に通信できる
- ● 電波干渉が少なく安定しやすい
- ● 4G以前から世界的に主流
- ● 音声通話(VoLTE)との相性が良い
- ● イメージとしては、「上り専用レーン」と「下り専用レーン」がある高速道路
■ TDD(Time Division Duplex:時分割複信)
- 特徴
- 上りと下りを同じ周波数で、時間で切り替えて使う方式。
- ● 上り/下りの比率を柔軟に変えられる(下りを多くするなど)
- ● 周波数の利用効率が高い
- ● 5Gで広く採用されている
- ● ただし基地局間の同期が必要で、設計が難しい
- ● イメージとしては、1本の道路を「時間で上り用/下り用に切り替えて使う」
キャリアごとの“独自色のある周波数帯”だけ一覧
4キャリアが使う周波数帯のうち、「他社と異なる(そのキャリアだけが使う or ほぼ専用で使う)」部分だけを抜き出してまとめます。
■ ドコモだけ(またはドコモが中心)
- ● Band 19(800MHz) → ドコモのプラチナバンド。山間部・郊外で強い。
- ● Band 21(1.5GHz) → ドコモ専用。都市部の容量増強用。
- ● n79(4.5GHz帯 5G)→ ドコモだけが使う5G帯域。屋内・都市部での高速化に寄与。
■ au(KDDI)だけ(またはauが中心)
-
- ● Band 11(1.5GHz)→ auが主に使用。他社はほぼ未使用。
- ● Band 18(800MHz)→ auのプラチナバンド。楽天ローミングにも使われるが、基本はau帯域。
- ● Band 26(800MHz拡張) → Band18を拡張したau独自運用。
■ ソフトバンクだけ(またはソフトバンクが中心)
- ● Band 8(900MHz) → ソフトバンクのプラチナバンド。ドコモ・auは未使用。
- ● Band 41(2.5GHz TDD)→ ソフトバンクが主に使用(旧AXGP)。高速化用。
- ● n257(28GHzミリ波)→ ソフトバンクが比較的積極運用(ただしミリ波は全社限定的)。
■ 楽天モバイルだけ
-
- ● Band 3(1.8GHz)単独運用 → 楽天のメインバンド。他社もBand3は使うが、楽天は“ほぼこれ一本”で全国展開している点が独自。
- ● n77(3.7GHz 5G)単独運用 → 楽天の5Gはn77に一本化。他社はn77/n78/n79など複数。
まとめ(本当に“違う部分だけ”)
| キャリア |
他社と異なる主な周波数 |
| ドコモ |
Band19 / Band21 / n79 |
| au |
Band11 / Band18 / Band26 |
| ソフトバンク |
Band8 / Band41 / n257 |
| 楽天モバイル |
Band3単独運用 / n77単独運用 |
日本の技適における無線LAN(Wi-Fi)の周波数帯と出力上限

この項は、日本国内で技術基準適合証明(いわゆる「技適」)を取得して利用される 無線LAN(Wi-Fi)機器について、代表的な周波数帯と、一般的な出力上限のイメージをモバイルWi-Fiルーター視点で整理したものです。
実際の上限値は、電波法施行規則・総務省告示・関連ガイドラインで細かく定められており、 機器の種別・用途・屋内外・アンテナ利得などによって変わります。ここでは「典型的な小電力データ通信システムとしての無線LAN機器」を前提にした情報です。
1. 周波数帯の整理(日本の無線LAN)
日本で無線LANに割り当てられている主な周波数帯
| 帯域 |
周波数範囲 |
主な用途・規格 |
屋内/屋外利用 |
| 2.4GHz帯 |
2400~2497 MHz |
IEEE 802.11b/g/n など |
屋内・屋外とも利用可 |
| 5.2GHz帯 |
5150~5250 MHz |
IEEE 802.11a/n/ac/ax など |
原則屋内。条件付きで屋外・上空利用可(高出力データ通信システム等) |
| 5.3GHz帯 |
5250~5350 MHz |
IEEE 802.11a/n/ac/ax など |
屋内のみ(DFS機能必須) |
| 5.6GHz帯 |
5470~5730 MHz |
IEEE 802.11a/n/ac/ax など |
屋内・屋外利用可(DFS機能必須) |
| 6GHz帯 |
5925~6425 MHz |
IEEE 802.11ax(Wi?Fi 6E)など |
屋内:Low Power Indoor (LPI)
屋外:Very Low Power (VLP) のみ(EIRP 25 mW 以下) |
モバイルWi-Fiルーター(ポケットWi-Fi等)がユーザー端末に対して出す「Wi-Fi」電波は、 主に上記の 2.4GHz帯・5GHz帯(最近の機種では
6GHz帯対応もあり)を用いています。
2. 出力上限のイメージ(小電力データ通信システムとしての無線LAN)
重要:ここで示す値は、代表的な上限イメージです。 実際には「空中線電力」「等価等方輻射電力(EIRP)」「チャネル帯域幅あたりの電力」など、条件付きで細かく規定されています。
正確な値を設計・認証用途で用いる場合は、必ず最新の 電波法施行規則・総務省告示・技術基準原文を参照してください。
代表的な出力上限イメージ(無線LAN機器・日本)
| 帯域 |
利用形態 |
代表的な上限イメージ |
備考 |
| 2.4GHz帯 |
屋内・屋外 |
EIRP おおよそ 100 mW(20 dBm)程度が典型的な上限イメージ |
小電力データ通信システムとしての無線LAN・Bluetooth等。 実機はアンテナ利得を含めてこの範囲内に収まるよう設計されることが多い。 |
| 5.2GHz帯 |
屋内(一般的な無線LAN) |
EIRP おおよそ 200 mW(23 dBm)程度が典型的な上限イメージ |
屋内利用が前提。高出力データ通信システムとして別枠の上限が定められるケースもある。 |
| 5.3GHz帯 |
屋内 |
5.2GHz帯と同程度のオーダー(数百 mW クラス)で条件付き運用 |
気象レーダー等との共用のため、DFS機能が必須。 |
| 5.6GHz帯 |
屋内・屋外 |
屋外利用を含め、EIRP 数百 mW~1 W クラスの上限が設定されるケースがある |
こちらもDFS必須。屋外利用時は特に他システムとの共用条件が厳密。 |
| 6GHz帯(LPI) |
屋内 Low Power Indoor |
EIRP 数百 mW クラス(Wi-Fi 6E 用途の低出力屋内利用) |
具体値はチャネル帯域幅等とセットで規定。屋内専用。 |
| 6GHz帯(VLP) |
屋外 Very Low Power |
EIRP 25 mW 以下 |
屋外で利用可能なのは VLP のみ。携帯端末・ウェアラブル等の超低出力用途を想定。 |
モバイルWi-Fiルーターはバッテリー駆動であり、かつ携帯機器としての安全性・干渉回避の観点から、 実際の送信電力は多くの機種で 10~100mW(10~20 dBm)程度に抑えられていることが一般的です。 これは上記の「法令上の最大値」より低い、実装上の設定値です。
3. モバイルWi-Fiルーター視点での読み方
- ● 3.1 周波数帯
- ● 2.4GHz帯: 障害物に強く、カバー範囲を取りやすいが混雑しやすい。
- ● 5GHz帯: 高速・多チャネルだが、屋内専用帯域やDFS必須帯域がある。
- ● 56GHz帯: 最新の Wi-Fi 6E 対応。日本では LPI/VLP という出力クラスで運用。
- ● 3.2 出力電力
- ● 法令上の上限: 帯域・用途ごとに EIRP の上限が定められている。
- ● 実機の設定: モバイルWi-Fiルーターは、バッテリー持ちと干渉回避のため、 上限いっぱいではなく、より低い出力で運用されることが多い。
- ● 技適マーク: 日本国内で合法的に使うには、技適マーク付き機器であることが必須。
4.まとめ
設計・認証・法令順守の観点で厳密な数値が必要な場合は、以下のような資料を 直接参照する必要があります。
- ● 電波法・電波法施行規則
- ● 総務省告示(無線設備規則・小電力データ通信システム関連)
- ● 総務省 電波利用ポータルサイトの「小電力データ通信システム(無線LAN等)」ページ
- ● ELEC 等の技術基準資料・JEITA ガイドライン(5GHz/6GHz帯無線LANガイドラインなど)
個別機種については、メーカーの仕様書・技術資料に「送信出力(dBm)」や 「対応チャネル・周波数帯」が記載されているので、それを確認するのが最も確実です。
【コラム】これからのモバイル通信の基地局の進む方向性

これからのモバイル通信基地局は「PHS化」するのか?
かつて日本には、独自の進化を遂げた通信システムが存在していました。それが「PHS(Personal Handy-phone System)」です。
低出力・高密度配置という特徴を持つこの仕組みは、携帯電話とは異なるアプローチでエリアを構築していました。そして今、このPHS的な発想が、形を変えて再び注目され始めています。
なぜ「大きな基地局の時代」が限界に来ているのか
これまでのモバイル通信は、「高出力の基地局を広範囲に配置する」ことでエリアを確保してきました。いわゆるマクロセル中心のネットワークです。
しかし、5G以降の世界ではこの方式にいくつかの限界が見え始めています。
- ● 高周波数帯(ミリ波など)は電波が飛びにくい
- ● 建物内部や都市部での遮蔽が大きい
- ● トラフィックが局所的に集中する(スタジアム・駅・繁華街など)
つまり、「広く飛ばす」よりも「細かく分けて捌く」ほうが合理的な場面が増えてきたのです。
小型基地局(スモールセル)の時代へ
そこで登場するのが「スモールセル」という考え方です。
これは、低出力の小型基地局を高密度に配置することで、エリアと容量の両方を確保する仕組みです。街灯や建物、屋内施設など、あらゆる場所に基地局が設置される未来が想定されています。
この構成は、まさにPHSが採用していた「マイクロセル構造」と非常によく似ています。
PHSと現代ネットワークの決定的な違い
ただし、単純な“PHSの再来”ではありません。現代のネットワークには、当時とは決定的に異なる進化があります。
- ● クラウド化された基地局(Cloud RAN)
- 基地局の制御機能はクラウド側に集約され、各セルはよりシンプルな構成になる
- ● 仮想化とソフトウェア制御
- ネットワークはソフトウェアで柔軟に制御され、用途に応じて最適化される
- ● 高度なハンドオーバー技術
- 端末の移動に伴う切り替えは、かつてのPHSよりもはるかにシームレス
つまり、「構造は似ているが中身は別物」と言えるでしょう。
6G時代に向けた「超分散ネットワーク」
- さらにその先、6Gの時代では基地局の概念そのものが変わる可能性があります。
- ● 基地局の超高密度化(セル半径数十メートル以下)
- ● 端末同士が中継するメッシュ型通信
- ● 衛星通信とのシームレス統合
- ● AIによるリアルタイム最適化
こうした要素が組み合わさることで、ネットワークは「面」ではなく「空間全体」に溶け込むような存在へと進化していきます。
結論:未来は「PHS的」だが「PHSではない」
これからのモバイル通信は、「大きな基地局で広くカバーする時代」から「小さな基地局で細かく最適化する時代」へと確実にシフトしていきます。
その意味で、PHSが持っていた思想――
「低出力・高密度・エリア分割」――は、むしろ現代の通信において本質的な解となりつつあります。
ただし、それは単なる回帰ではなく、クラウド・AI・仮想化といった新しい技術の上に成り立つ“進化したPHS的世界”です。
過去の技術を知る人ほど、この流れには強い既視感を覚えるはずです。そして同時に、その進化のスケールの大きさにも驚かされるでしょう。
モバイル通信の未来は、「より遠くへ」ではなく「より細かく、より賢く」。
そして、その方向性は、すでに静かに、しかし確実に現実のものとなり始めています。