結論から言うと、個人レベルの電子工作で「簡易的なチェッカー」を作ることは可能ですし、企業向けにはさらに高度な検証用デバイス(いわゆる「USB隔離・検査装置」)が実用化されています。
しかし、市販の安価な製品として一般に普及していないのには、「バッドUSB側の巧妙な騙しのテクニック」という大きな壁があるからです。
この自作チェッカー(中継器)に怪しいUSBを挿すと、以下のような簡易チェックができます。
USB機器はパソコンに接続された際、「私はマウスです」「私はUSBメモリです」というプロフィール情報(デバイスクラス)を送信します。
見た目はUSBメモリなのに、中継器の液晶に「キーボード(HID)として認識されました!」と表示されれば、「これはバッドUSB(偽装キーボード)だ!」と一発で見破ることができます。
しかし、ハッカー側もさらに賢い罠を仕掛けてくるため、100%安全と言い切るチェッカーを作るのは非常に困難です。主な理由は以下の3つです。
● USBのファームウェア(制御プログラム)は、通常はチップの内部に厳重に隠されており、外から接続しただけで中のプログラムをすべて読み出してスキャンすることは、USBの仕組み上できない仕様になっています。
● バッドUSBの正体は、突き詰めると「ただのキーボード」です。
チェッカーから見れば、それが「人間がタイピングするための本物のキーボード」なのか、「ハッカーが作った偽のキーボード」なのか、プログラムの文字情報だけでは区別がつきません。
●最も厄介なのが、「チェッカーに挿されている間は大人しくUSBメモリのフリをして、本物のパソコンに挿し直された数分後に、豹変してキーボードとして動き出す」という時間差タイプのバッドUSBです。これだと、最初のチェッカーでの検査をすり抜けてしまいます。
銀行や官公庁など、絶対に情報漏洩が許されない組織では、ご提案されたアイデアをより厳格にした「USBキオスク(データ隔離端末)」という専用の装置を導入しています。
これは、怪しいUSBメモリをいきなり自分のパソコンに挿すのではなく、ネットワークから完全に隔離された専用の「検査用パソコン」に一度挿し、不審な挙動がないかを安全なサンドボックス(実験場)の中で徹底的にテストしてから、中身のデータだけを安全に取り出すという仕組みです。
情報が外に漏れない
バッドUSBの目的の多くは、「パソコン内のパスワードを盗んでハッカーのサーバーに送信する」ことです。
ネットに繋がっていないパソコンであれば、どれだけキーボードを勝手に連打されても、データを外に送信する手段がないため、情報は一歩も外に出ません。
自分のメインPCやデータが傷つかない
ジャンクパソコンの中身がどれだけ破壊されようが、ウイルスに感染しようが、自分の大切なメインのパソコンや、Wi-Fiで繋がっている家のネットワークには1ミリも影響が及びません。最悪、壊れたらそのまま廃棄すればいいだけです。
「オフラインだから100%安心」と言いたいところですが、バッドUSBの攻撃は非常に巧妙です。ジャンクPCでテストする際にも、実は以下のような過渡期ならではの罠や、物理的な罠が存在します。
● USBのファームウェア(制御プログラム)は、通常はチップの内部に厳重に隠されており、外から接続しただけで中のプログラムをすべて読み出してスキャンすることは、USBの仕組み上できない仕様になっています。
先ほどもお話しした通り、ジャンクPCに挿した時は大人しく「普通のUSBメモリ」のフリをして、何も起きないことがあります。ユーザーが「よし、安全だな」と安心し、その後メインのパソコンに挿し直した瞬間に牙を剥くという、人間心理を突いた時間差攻撃があります。
バッドUSBの進化系(というか別物)に、「USB Killer(USBキラー)」という恐ろしい兵器が存在します。
これはプログラムでハッキングするのではなく、挿された瞬間にパソコンのポートから電気を吸い上げ、それを何倍にも増幅して高電圧の電気ショックをパソコンの基盤(マザーボード)に逆噴射するという物理攻撃デバイスです。
これに引っかかると、挿した瞬間に「バチッ」と音がして、ジャンクパソコンが物理的に一発で二度と起動しない鉄クズになります。
「ネットに繋がっていないジャンクPCでテストすれば安全か?」
ネット上にある、「電波が1.5kmも飛ぶバッドUSBケーブル」という情報は、都市伝説や誇張ではなく、実在するハッキングツールの仕様に基づいた「本物の情報」です!
この製品の正体は、セキュリティの専門家やハッカーの間で非常に有名なO.MG Cable(オーエムジー・ケーブル)と呼ばれるデバイスです。
見た目はAppleの純正Lightningケーブルや、普通のType-C充電ケーブルにしか見えませんが、プラグのプラスチックの根元に「超小型のWi-Fiチップ」と「アンテナ」が完全に埋め込まれています。
一般ユーザーが「Wi-Fiが1.5kmも飛ぶわけがない(せいぜい数十メートルだろう)」と疑問に思うのは当然で、非常に正しい感覚です。しかし、以下の仕組みを使うことで、この小さなケーブルから驚くほどの長距離通信を実現しています。
このケーブルは、家にあるWi-Fiルーターに繋がるのではなく、ケーブル自体が「ハッカー専用のWi-Fi電波(親機)」を周囲に発信します。
ハッカーはスマホやパソコンから、そのケーブルが発するWi-Fiに直接接続して操作します。
ケーブル単体と普通のスマホを繋いだだけでは、電波は「遮蔽物のない直線距離で最大数百メートル」ほどしか届きません。
しかし、ハッカー(攻撃者)側が、遠くの電波を狙い撃ちしてキャッチできる「超高感度の指向性アンテナ(パラボラアンテナのようなもの)」を使用した場合、見通しの良い直線距離であれば本当に1.5km離れた場所からでもケーブルを無線操作できることが実験で実証されています。
ハッカーは1.5km先(あるいは近くの車の中や別室)から、スマホの画面を見て「今だ」とタイミングを計り、ターゲットのパソコンへ勝手にキーボード入力を送り込み、リアルタイムで「タイピング」することができます。
さらに新しい進化型では、ケーブルのWi-Fiを「その場のオフィスや、標的のスマホのテザリング」にこっそり自動接続させる機能もあります。
これに引っかかると、1.5kmどころか、ハッカーが地球の裏側にいてもインターネット経由でいつでもパソコンを遠隔操作されてしまうという、さらに凶悪な仕様になっています。
「『1.5km先からWi-Fiで操られるケーブル』と聞くとSFのようですが、これは実在する脅威です。
しかし、どれだけ電波が遠くから飛んでこようとも、ハッカー側の攻撃がスタートするのは『あなたがそのケーブルをパソコンに挿した瞬間』だけです。
誰かからもらった怪しいケーブル、ネットで買った素性の知れない激安ケーブルを安易に使わず、信頼できるメーカーの本物のケーブルを使うこと。これだけで、1.5km先のハッカーを完全に無力化できます!」
このWi-Fi仕込みケーブル(商品名:O.MG Cable)を開発・製造しているのは、「Hak5(ハックファイブ)」というアメリカの有名なセキュリティ研究・ハッキングツール専門の企業です。
「ハッキングに使える道具を売るなんて犯罪では?」と思われるかもしれません。しかし、これらが堂々と販売されているのには、セキュリティ業界ならではの裏の理由があります。
このケーブルは、警察やセキュリティ会社が使えば「防犯のためのテスト工具」になりますが、悪意あるハッカーの手に渡れば「サイバー兵器」になります。
料理人が使う包丁が、使い方次第で凶器になるのと同じ理屈で、道具そのものの製造や販売は規制しにくいという法的・倫理的なグレーゾーンが存在します。
Amazonや家電量販店、100円ショップなどの一般的なルートには絶対に流通していません。
価格も1本あたり「約150ドル~200ドル(日本円で約2万数千円~3万円以上)」と、充電ケーブルとしては異常に高額です。Hak5の公式サイトや、海外の特殊なガジェットショップでしか購入できないため、一般のユーザーが「安いから」と間違って買ってしまう心配はありません。
実は日本国内にもバッドUSBや「O.MG Cable」はしっかりと流通しています。
一般の人が家電量販店で見かけることはまずありませんが、専門的なルートや特定の市場を調べると、国内での流通形跡や、実際の悪用を示唆する生々しい形跡が複数見つかります。
国内には、海外のハッキングツール専門メーカー(Hak5社など)から製品を正規に買い付け、日本の組織向けに販売している専門の輸入・販売代理店(株式会社アイティフォーやYopitekなど)が実在します。
主に自衛隊、都道府県警察のサイバー犯罪対策課、大学の研究室、民間セキュリティ企業などを対象に、見積書や請求書ベースで「防犯・検証用機材」として公然と流通しています。
驚くべきことに、メルカリやYahoo!フリマ(旧PayPayフリマ)などを探すと、個人が海外から輸入した「O.MG Cable」やプログラマー(設定器)のセットが、数万円の価格で出品・取引されている形跡が実際に確認できます。
建前は「セキュリティの勉強用・検証用」ですが、身元確認なしで誰でも購入できる状態にあるため、悪意ある個人の手に渡っている可能性は否定できません。
「実害」という面でも、日本の公的機関や企業はすでに標的になっています。
警察庁や情報セキュリティ機関の発表、および各種報道によると、日本の防衛関連企業や政府機関を狙い、「ウイルスを仕込んだUSBメモリを通販の購入品に紛れ込ませる」、あるいは「オフィスに罠として置いていく」といったスパイ工作(中国のサイバー軍やロシアの犯罪グループが関与したとみられるもの)が過去に何度も観測され、捜査対象になっています。
「こんなスパイ映画のようなケーブル、日本にはないでしょ?」と思うかもしれません。しかし、筆者がさらに調査を進めたところ、恐ろしい事実が見えてきました。
かつて(1990年代~2000年代初頭)のハッカーは、「自分の技術を自慢したい」「大企業をハッキングできて面白い」という知的好奇心や愉快犯(おもしろ半分)が主流でした。
しかし現在、悪意あるハッカー(ブラックハットハッカー)の[動機は完全に「経済的利益(お金)」にシフトしています。
彼らにとってハッキングは「面白半分のアソビ」ではなく、「最も低リスクで、最もハイリターンを狙える効率的な仕事(犯罪ビジネス)」 なのです。
企業のパソコンやサーバーを暗号化して使えなくし、「元に戻してほしければ数千万円~数億円を支払え」と脅迫する手口です。
盗み出した個人情報、クレジットカード情報、企業の機密データ(開発中の設計図など)は、一般のネットからは見えない「ダークウェブ」と呼ばれる闇市場で、高値で即座に取引・現金化(暗号資産化)されます。
これが最も恐ろしい仕組みです。現代のハッカーは、自分でウイルスを作って自分で攻撃するわけではありません。
これによって、IT知識が少ない一般の犯罪者でも「手軽に参入できて儲かるビジネス」として、ハッキングが世界中に蔓延してしまいました。
現実世界の強盗やスパイ活動には「逮捕されるリスク(防犯カメラや警察)」や「現場に行くコスト(交通費や武器代)」が重くのしかかります。
しかし、サイバー犯罪の場合:
つまり、彼らにとっては「原価ほぼゼロ、逮捕リスクほぼゼロで、数千万円が手に入る、最もタイパ・コスパが良いビジネス」に見えているわけです。
ここまで紹介したバッドUSBやWi-Fi仕込みのケーブル(O.MG Cable)は、決して「おもしろ半分」で作られた悪戯グッズではありません。現代のハッカーは、完全に「お金(ビジネス)」のために動いています。
彼らにとって、他人のパソコンを乗っ取ることは「身代金を要求できる資産」を手に入れることと同じです。原価が安く、海外から安全に攻撃できるサイバー犯罪は、彼らにとって「最も効率の良い儲け話」なのです。
だからこそ、私たちは「まさか自分が狙われるわけがない」という油断を捨て、物理的な防犯(出所不明のものは繋がない、画面はロックする)を徹底し、ハッカーにとって「攻撃するコスト(手間)が高すぎて割に合わない環境」へ最適化していくことが、究極の防御になるのです。
「国として回線事業者に遮断させる」という仕組みは、世界で以下のような形で現実化しつつあります。
逆に相手国側の動きですが、ロシアや北朝鮮、中国などは、自国内のネットを世界(西側諸国)からいつでも切り離せる独立したネットワークシステム(中国の「金盾(グレートファイアウォール)」など)を国家主導で構築しています。
ウクライナ侵攻の際、欧米の主要なIT企業や回線通信プロバイダー、セキュリティ大手が提携し、「ロシア国内からの通信を遮断・制限する」というデジタルな制裁措置が実際に一部で実行されました。
「危ない国からの通信を法律で100%禁止して、KDDIやNTTなどの回線事業者に一斉に遮断させればいいのでは?」と思いますよね。しかし、それが一筋縄ではいかないのには、インターネットの構造上の「罠」があるからです。
ハッカーは馬鹿ではないので、ロシアや北朝鮮のパソコンから直接、日本の企業にハッキングを仕掛けることは滅多にありません。
彼らは一度、「アメリカの一般家庭の安全なパソコン」や「日本国内のセキュリティが甘い中小企業のサーバー」を乗っ取り、そこを経由(踏み台に)して攻撃してきます。
そのため、国単位で通信を止めても、「日本国内のサーバーから日本企業への攻撃」になってしまい、検知や遮断をすり抜けてしまうのです。
日本のような自由民主主義国家では、憲法で「通信の秘密」や「表現の自由」が厳重に保障されています。
国家が法律で「この国との通信は一律で覗き見して遮断する」と命令することは、検閲(けんえつ)に繋がりかねないため、法整備のハードルが極めて高いという民主主義ならではのジレンマがあります。
国家が一律で止めるのが難しいからこそ、現代のインターネットでは、ご提案された仕組みを「セキュリティ企業や民間企業のレベル」で24時間実行しています。
大企業やネット銀行のサーバーでは、回線事業者やクラウドサービス(CloudflareやAWSなど)の技術を使い、「ロシアや北朝鮮、特定の地域からのアクセスIPアドレスは、自動的にすべて最初から拒否(ブロック)する」という防壁(ジオブロッキング)を自主的に張って、環境を最適化・防衛しています。
ハッカーの国からの通信を一律で遮断する「国家の壁」があれば一番安全ですが、ハッカーが第三国を経由してくる現代のネット社会では、国が法律で100%防ぐことは困難です。
だからこそ、最終的な防衛ラインは、私たち個人のデスクの上にあります。
どれだけ国家間のサイバー戦が激化しようとも、物理的に「出所のわからないUSBを挿さない」「席を立つときはロックする」という、一人ひとりのデスク環境の最適化(セキュリティ意識)こそが、日本を守る最強のファイアウォール(防火壁)になるのです。
今回は、見た目に騙されてはいけない「バッドUSB」の脅威について、その「続編」を解説しました。
どんなに国家が防壁を築き、企業が最新のセキュリティソフトを開発しても、最後の最後でUSBやケーブルをパソコンに物理的に「挿す」という決定を下すのは、画面の前にいる「人間(ユーザー本人)」です。最後の防衛ラインは常に個人に委ねられています。
「怪しいものは繋がない」という基本を守り、安全で快適なネットライフを送りましょう!
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【筆者プロフィール】
アナログ・デジタル総合種 工事担任者。
昭和40年代の「ラジオ・アマチュア無線少年」としての自作文化を原点に、端末設備の設置や外線工事、地下マンホール内での通線作業、果てはPHSの基地局設置など、日本の通信インフラの現場を最前線で支え続けた専門家。趣味はオーディオとフィッシング。現在は、当時の泥臭い現場の知恵を交えながら、現代の「通信の裏側の驚き」を一般ユーザー向けに分かりやすく解説するシリーズ記事を執筆中。